「クライエントは誰か」
MSWになって2年目。
この年は私の人生を大きく変える目眩(めくるめ)く出会いがあった。まず、この道40年弱の大ベテランMSWとの出会い。
今も真剣に、勝手に恩師と仰いでいる。
私はその頃、まだよくわかってないことの中で必死に仕事をしていた。なんとか形にしようともがいていた。
骨折した患者さんの担当をしていて自宅で生活していた人だった。
骨折を機に患者さん家族は施設に預けたいと考えている、と思いを吐露してくれた。
患者さん自身は「家に帰ります」の一択。
今思えばあるあるの話なのだけど、私は「クライエントって誰なんだろう」「相反する二つの意見の中で私はどう振る舞えば良いの?」と変な窪に落ち込んでしまった。
恩師に「私は一体どっちの話を聞けばいいのでしょうか。患者さんが私のクライエントなんだと思うんですけど。でも娘さんの意見も聞けば聞くほど納得できるし」と話したところ、答えは単純明快だった。
「私はあんまりそこ、考えないな。自分に思いを話してくれた人があなたのクライエントよ」。
結局恩師はそれ以上の話はしなかったけど、私にはそれで十分だった。
一人の患者さんに対して、相矛盾する二つ(時には三つとか)意見が出ることはある。その中で、私は私が向き合っている人の意見をきちんと聴く。
よく聴く。
その上でこちらが伝えられることは事実や社会制度など。
特に「家に帰ったらいい」「施設に入ったらいい」なんていうバイアスは医療者の偏見でしかないと思っているから、「家に帰った場合は」「施設に入った場合は」という仮定の話の中でより患者さんや家族がこうしたいと思うものを考えていただければと思うし、方向性の話は家族と患者さんの間でしっかり話してもらいたいと思っている。
時々「病院側から施設に行くように言ってください」などと言われるけど、そういう機能は私にはない。
それを決めるのは私ではないから。
コロナさえなければ、この夏会いたかった人ナンバーワンの恩師。今も定年後にゆるりと働いているときくし。そろそろ会いたいのだけどなぁ。