MSWのこぼれ話

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怒りの感情は支援の阻害要因。

まもなく退院するAさんの話。

とにかくわがまま放題で身体機能うんぬんよりも本人の「気持ちの問題」でリハビリが進んでないというのが急性期からの前評判だった。

ご家族も結構なキャラクターで入院初日から「いちいち病院から呼ばれても困るんで。私も仕事あるし病院になるべくお任せしたい」と言っていた。その日も朝11時の退院に間に合わずに寝坊してしまったとのことで1時間半遅れで到着した。

波乱の幕開け。

 

そこから毎日順調にリハビリをしていて、「家に帰る」という気持ち満々だった本人。ただ、ご家族からは「何年も前から施設に入ってほしいって言ってるけど家に帰ると言い張ってる」と困った様子で相談されていて、どうなることやら...という状況だった。

 

ところがある日、動けるようになって自信がついたのか自分で動いてしまい転倒。

その日を境に「痛みとの戦い」みたいな日々になってしまい、自宅退院もどんどん遠のいていった。

ちょうど介護保険の区分変更調査はその事故の前に入っていた。

年明け、出勤したらリハビリの担当者から「施設方向は無理ですか」と相談され、本人が全く動けない状態でもあったので、先生とも本人とも相談して施設も検討することに。

 

在宅のケアマネージャーにも連絡して自宅に帰れないかもしれない旨を伝えた。ケアマネはホッとした様子だった。

 

それから数日。施設の実調がきて、本人は「やっぱり施設やだ」とのことだったが、在宅に戻るにはあまりにも介助量も多くて返せる見通しも立たず、ひとまず退院前カンファレンスでケアマネージャー、家族の1人が同席して話し合うことになった。

 

その話し合いも紛糾と平行線。

家に帰したくない娘さんとケアマネ(なぜ?)、本人の意向もくみたい病院、という図式になってしまい退院先が決まらないまま会議を終えた。

会議後のこと。

本人と家族の間で意見が割れてる以上、在宅に戻る場合の準備を進めつつリスクも説明し、施設に行くメリットとデメリットなども本人と家族に話してあとは、週末に他の家族も交えて話してもらうことになった。

 

そして週末。

もめにもめた話し合いのすえ、本人の希望通り自宅退院することに。

さらに悪いことに介護保険の結果は要支援のまま。

 

その報告を週明けにケアマネージャーにすると、なんとも怒りに満ちた空気感で「そんなことして病院は責任取れるのか。家族は本当に納得しているのか。サービスは組めない」といったことを矢継ぎ早に話された。

 

そして最終確認として、必要な手すりや福祉用具、サービスについて確認の連絡をしていた時のこと。「支援で(要支援で)そんなに手すりを使う人いませんから。何千単位使うか知ってますか!」とご立腹の様子。

そりゃそうでしょう。

区変の調査のタイミングも悪かったし、本人は気持ちを押し通すし、家族は呆れて手を引き始めてるし。

でも今目の前にいる本人が家に帰ることは確定しているし、ケアマネージャーは在宅に戻ったら本人のケアプランを考えてスムーズに在宅生活が送れるように力になってくださらないといけないわけで。

 

病院としてもできる限りのサポートをしていくしかない。

という主治医の方針もあり、本人も家族も今回は(不承不承でも)在宅という選択をしたのだから、そこに感情や反論を挟む余地はないはず。

ケアマネさんの怒りを見ていて、支援について改めて考えさせられたし、日頃、なるべくフラットでいようと思って他職種にも患者さんにも接しているけど、改めて感情移入しないことの大切さを思い知った出来事だった。

 

自分が何かに強い負の感情を抱くことで、見えるものが見えなくなる。

たくさん心配していることも、どうしても無理な時には看護師や病院に連絡をほしいことも伝えて(訪問看護や訪問診療先に)いるけど、在宅チームのまとめ役がどうにも「やりたくない」と言いつつケアマネを降りないことが解せない。

本人の前でも幾度となく、強い口調で「こんなんだったら迷惑かけるんだから!」とか「私はやりきれません。ケアマネやめますよ」と脅しつつ話していて、すごくベテランで頼れそうな人ではあるものの、自分にとって都合の悪い人、相性の悪い人には冷たいんだろうなという印象を受けた。

 

自分ももちろん100人いて100人とうまくできるわけでもないし、やりにくいと感じる人もいる。

けど、少なくともそれが患者さんや家族だったら、やりにくいと感じるほど、その気持ちをなるべく自覚して相手と関わるようにしたいと思っている。

やりにくさや付き合いにくさから逃げている時、それを相手のせいにしている時は絶対に良い援助関係は結べないと思うから。

 

良い勉強になった。

何はともあれ、患者から一生活者に戻っていく患者さんがこの先も長く安全に過ごせるようにと願ってやまない。